「コーチング」と聞くと、個の人生にフォーカスを当てた取り組みをイメージする方も多いかもしれません。しかしコーチングの学びは、マネジメントをはじめとしたさまざまなビジネスシーンにも影響を及ぼします。
2021年6月28日に開催されたTHE COACH ICPのイベントでは、経営者・マネージャーとして活躍するプロコース第1期卒業生の3名に登壇いただき、「リーダーの変容が組織に与える影響とは」というテーマでトークセッションを行いました。
セッションの中で皆さんが口を揃えたのは、「自身がコーチングを学んだことで組織にも大きな影響があった」ということ。しかし、コーチングのセッションそのものを組織に取り入れたわけではないとも言います。それでは、組織の変容を促した「コーチングの学び」とは一体なんだったのでしょうか?
このnoteでは、現在リーダーとして活躍中の3名とTHE COACH代表こばかなによるトークセッションをダイジェストでお届けします。
<登壇者プロフィール>
メンバーの感情に向き合うことで現れた組織の変容
こばかな:今回お集まりいただいた皆さんは経営者でいらっしゃいます。組織のリーダーであるみなさんに変容があった場合、組織にも何かしらの影響があったかと思うのですが、そのあたりをお聞かせください。
吉村:僕は自分のマネジメントスタイルをどう変容させていくかがコーチングを学ぶ過程で向き合ってきたことのひとつで、それは間違いなく組織に良い影響を及ぼしたと感じています。
まず変化を感じたのはメンバーとの1on1の時間。コーチングのマインドを取り入れるまでは仕事の話がメインだったのですが、よりその人自身に向き合おうとした結果、メンバーのプライベートの時間や生活の話をするようになりました。
そこから話を掘り下げていくと、彼ら自身が潜在的に持っていたやりたいことがたくさん出てくる。じゃあそのために仕事や組織がどう変化したらメンバーの願いを叶えられるのかというところまで考えるようになり、1on1のアプローチの入り口が以前とは違う形になりました。
チームのメンバーがやりたいこと、「こうありたい」という姿に向き合い、それを最大化できるようなマインドセットに変化したのはリーダーとしての変容だと思っています。
甲斐:私は、自分自身が一人ひとりのメンバーの可能性を信じて向き合えるようになったのが、大きな変化でした。
もともと私は能力主義的な考え方が強く、業務遂行能力のある人を高く評価していました。でもそれは、何か一緒に仕事をしているときに「その瞬間」の実力が見えるからジャッジがしやすいだけで、その人の将来の可能性については、考えることができていませんでした。
コーチングマインドを取り入れることによって、メンバーのやりたいことや進みたい道を丁寧に聞いて向き合えるようになりました。それによって彼らが自発的に進みたい方向へ進んでいき、結果的に個人のパフォーマンスの向上や業績の伸長があった。まさに今、組織の変容を体感している最中です。
こばかな:甲斐さんは、コーチングを学んだことで会社のビジョンやミッションも更新されたそうですね。吉井さんの組織には変化はありましたか?
吉井:いちばんの変化は、私自身が人の感情や願いに意識を向けていいんだという考え方をインストールできたことです。これまでは何らかの意思決定をする場合「なぜ」ってなりがちだったんですよね。感情よりも論理に重きを置く。
ですがTHE COACH ICPの時間を通じて、相手の発言の奥にどんな感情があるのかに目が向くようになりました。それによって会社の会議の場でも、ロジックを追及する質問ではなく、メンバーの感情に好奇心を寄せた質問を先に投げかけるようになったんですよね。
論理よりも感じていることを吐き出す方が発言がしやすいためか、以前よりもメンバーがぶつかりにきてくれる場面が増えてきて、対話を重ねやすい環境が整ってきていると思います。
こばかな:吉井さんの組織でも、変化が現れてきているのですね。私も以前は論理的な思考が大好きで、感情に目を向ける視点すらありませんでした。でも、コーチングを学んでからはなぜその意思決定をするのか、そこには論理では語れない何かがあると思えるようになれましたし、気持ちの部分を大事にすることは時として合理的でもあると感じています。
それぞれのリーダーが考える「コーチングマインド」
こばかな:皆さんからお話を聞いていると、コーチングのセッションそのものより、コーチングマインドを取り入れた影響が大きい印象を受けました。皆さんが考える、その「マインド」について教えてください。
吉村:コーチングマインドを自分なりに定義すると、「深く心の声を聞くこと」。言葉でのコミュニケーションはわかりやすくはあるけれど、その真意が削ぎ落とされて受け手側によって解釈が変わってしまうことがよくあります。その言葉の奥にどんな願いがあるのか、本当はどう思っているのかに目を向け続ける。対人関係において、それを常態化していることがコーチングマインドなのかなと思っています。
吉井:私の場合コーチングマインドは、人の感情に好奇心を向けて寄り添う、そのあり方だと思っています。やりたいことや願いだけでなく、拒絶や不安などネガティブとされている感情にも目を向ける。組織の中でも、感情にフォーカスするあり方が広まっていくといいなと思っていて、現在コーチングマインドを取り入れている最中です。
甲斐:おふたりの考え方には賛成です。その上で、あえて私なりに表現するのであれば、相手が持っている価値観の箱のようなもの、その構造自体に目を向けることがコーチングマインドだと考えています。
ひとつの現象が起きても、それが個人の価値観の箱を通っていくとまったく違うアウトプットになる。その構造部分を注視して、何が起きているのかを理解しようとする、そんな感覚だと思います。
リーダーの仕事を小休止して、THE COACH ICPで過ごした非日常の時間
こばかな:コーチングマインドに関してはこれという正解はありませんので、皆さんにとってのマインドの話を聞くのは興味深いです。そのマインドを手に入れたTHE COACH ICPでの期間について、改めて振り返るといかがでしたか。
甲斐:ひとことで言えば、人生でいちばん自分の内面に向き合った時間でした。「自分はだめだ」「しんどいな」そういうネガティブな感情で、自分を痛めつけることが以前はよくありました。
ですが、自分を痛めつけてくるその人格をTHE COACH ICPで「シャドウ」と教えてもらい、まずはそれを認識できたことでネガティブな感情に囚われることが少なくなりました。
こばかな:「シャドウ」について補足をすると、自分自身が本来はこうしたいと思っていることを無意識的に抑圧する存在のことですね。過去に抑圧された体験やトラウマなどによって生まれるもので主にセラピーやカウンセリングの領域で主に取り扱われている概念ですが、最近はコーチングの場でもシャドウは無視できない存在になっています。
吉村さんや吉井さんはTHE COACH ICPでの体験を振り返ってみると、どんな時間でしたか?
吉村:すべてのコースを通して思うのは、一緒にコーチングを学ぼうという同じ志を持った仲間と過ごせたことがかけがえのない時間でした。マネジメントをしたり、会社を経営したりするようになると、仲間と同じ目線で何かを考えることってなかったなと。仲間とフラットな関係性を築けたのは久しぶりだった気がします。
吉井:私の場合は、THE COACH ICPというコミュニティにどっぷり浸かることで、自分のマインドや考え方にこういう変化が起こるんだなと、肌で感じられた時間でした。コーチングマインドをインプットしている組織ってこんな感じなんだなと体感できたので、いざ自分がコーチングをしたり、組織に取り入れたりしようとするときに自分が体感した感覚を提供できるのではないかと思います。
こばかな:コーチングの考え方って、自分で実践してみないと難しい奥が深いものなんですよね。体感覚を得てはじめてコーチングを理解できる場面は、プロコースの中でたくさんあったのではないかと思います。
コーチングも経営も「アートっぽい」?
こばかな:視聴者の方からたくさん質問が届いております。たとえば「経営や人生の意思決定は自己表現であり、アートだなと感じることがあります。皆さんのアートなお話が聞きたいです」。私も個人的に、コーチングや経営ってアート的だなと考えることあります。もちろん、全然そうは思わないよという意見も含めて何でも聞いてみたいです。
甲斐:今湧いてきたことを口にすると、経営とアートの共通点って、正解がないことだと思っています。自分が思うことを追求してOKだとは思うし、その想いを表現することで自分自身が救われることはある。
その一方で、必ず人を巻き込んでいく必要があるので、自己満足という意味のアートとしては完結させちゃいけない。だからこそ、自分と他者のやりたいことが重なる部分を模索していければと思っています。
吉井:「重なり」は自分も重要だと思っていて、組織や経営者のやりたいことに対して、どんな人が惹きつけられるのか、どんな願いを持った人が集まってくるかはアートだと感じます。その組織の色、見ている方向、世界観。「組織のやりたいこと」自体がアートなんじゃないでしょうか。
こばかな:面白いですね。視聴者の方から「アートっぽい!」とコメントもいただきました。吉村さんはいかがでしょう。
吉村:コーチング、経営、アートの似ている部分は、できあがったものが思いもよらない仕上がりになることではないでしょうか。どんなに計画を練っても、予定通りに行くことはほぼありえない。だからこそ、全然うまくいかなかないこと自体を楽しんだり、ワクワクしたりできます。こばかなさんからもアートの話を聞いてみたいです。
こばかな:私ですか!ありがとうございます。私の場合は、ミッションやビジョン、それに付随する細かい意思決定まで全部がアートだと思っています。THE COACH の代表をしていて感じるのは、論理的に導き出せる意思決定ができるのは下流の階層(編集部注:現場寄りのレイヤー)で、上流の階層(編集部注:経営寄りのレイヤー)では結局自分がどうしたいかってところに尽きる。
ここにいる4人に理想の社会について聞いた場合、おそらく4通りの回答があると思うんです。理想の社会に向けたミッション・ビジョンもアートだし、それに紐づく意思決定にもリーダーの価値観が現れてくる。
“自分が”どう感じるのか。そこに向き合い続けないと、意思決定がブレたり組織が迷走したりしてしまうため、組織のリーダーは自分自身を知ることがとても重要だと思います。最近自分がコーチングを受けている中でも、改めて実感していますね。
THE COACH ICP卒業生が考える、「わたしのとってのTHE・コーチ」
こばかな:最後に「あなたにとって”THE・コーチ”とは?」という質問で締めていきたいと思います。今この瞬間に湧いてきたことを場に出していただきたいです。
吉井:「この人に、自分の感情に寄り添ってもらいたい」と思える人が”THE・コーチ”なのかな。職業としてのコーチでなくても、自分の願いに耳を傾けてくれる人は、自分にとってのコーチだと思います。
吉村:僕にとって”THE・コーチ”とは映画だな、と感じます。今回のTHE COACH ICPでは自分の人生をひとつのストーリーと見立てて、監督としてひたすら意味を見出したり考察をしていく感覚でした。もがく中で自分なりの発見があったり、ときには苦しい事実が見つかったりすることもありましたが、それもまた自分の人生にとって意味のあることだったと思っています。
甲斐:吉村さんのようにアートでたとえると、わたしにとって「THE・コーチ」はオーケストラ。THE COACH ICPの空間でコーチの経験をしたり、クライアント体験をしたり。指揮者のタクトに合わせて、みんなで演奏しながら自分の音を聞いたり、他の人の音に耳を澄ましたりする。
特にプロコースでは、コース自体がコーチングを受けているような気分なんですよね。自分のこれまでの人生が教材になる感覚なので、臨場感がありすぎて強烈な体験でした。
こばかな:アートで表現していただきありがとうございます。「リーダーの変容が組織に与える影響とは」というテーマでお話いただきましたが、皆さん共通してご自身だけでなく、組織のメンバーとの関係性にも変容があったように思えます。
コーチングを学ぶというのは、いわば強力なメガネを手にするような感覚で、これまで見えてこなかったものが見えてくることが多々あります。いろいろ見えてくるからこそ、以前までは迷いなく意思決定できていた場面がスムーズにいかなくなることも。とはいえ、これまで無視してきたことによる組織の不和にも、気づけるかもしれません。
今回お話しいただいた3名は、コーチングの概念をご自身や組織に取り入れている最中だということで、これからも陰ながら応援していきたいと思います。本日はありがとうございました!
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「これからの自分と周囲の向き合い方」と題し、全3回に渡って9人の卒業生と対談を行ってきました。ご協力いただいた登壇者の皆さま、そして視聴者の皆さま、本当にありがとうございました。今後も定期的にこのイベントを開催する予定ですので、ご参加いただければ嬉しく思います。
また、THE COACH ICPでは毎週水曜日と土曜日に無料体験会を実施しています。コーチングについて気になった方、コーチングを学びたい方は下記URLよりお申し込みください。