職場や働く環境を変えてみたけれど、また同じ悩みにぶつかっている。
選択肢が広がるほど、自分のやりたいことがますますわからなくなってしまう。
そんなふうに感じている方はいませんか?
働き方や生き方が多様化する時代に、より自分らしい働き方や生き方に出会うために必要なこととは何だろうーー。
そんな問いを携えて、今回のイベントでは自分をいかす仕事に出会うためのトランジションコミュニティ「グリーンズジョブ」を運営するNPO法人グリーンズの共同代表 植原正太郎さん、「グリーンズジョブ」のコミュニティマネージャー長田涼さんをお招きしました。
“人生の移り変わり期”と言われるトランジションとはそもそも何なのか。そして、トランジション期にコーチングができることとは何なのか?
THE COACH代表取締役かつプロコーチとして活動する岡田 裕介も交えた対話の内容をダイジェストでお届けします。モデレーターはTHE COACHの松浦 瞳がつとめました。
〈登壇者プロフィール〉
人生の“移り変わり期”であるトランジションとは何か?
——グリーンズジョブが大切にしている「トランジション」という言葉。聞きなれない方も多いのかと思うのですが、まずはトランジションとは何なのか教えていただけますか?
植原:トランジションとは、アメリカの心理学者ウィリアム・ブリッジズさんが提唱した考え方。日本語では「転機」と翻訳されますが、僕らは「移り変わり期」と呼んでいます。人生の中で大きな変化をもたらす重要な期間のことです。転職や移住など外的環境の変化だけでなく、自分の内面的な変化もトランジションに含まれています。
こちらはトランジション期のプロセスを表しているのですが、興味深いのが「終わり」からスタートすること。これまでの価値観や生き方を一度見直し終わらせることで、次の「ニュートラルゾーン」に突入します。ニュートラルゾーンは何にもとらわれない空白期間です。「何者でもない状態」とでもいいましょうか。何者でもないから不安や葛藤が現れますが、その期間を大切に過ごすからこそ「新たなはじまり」が訪れるものだと思っています。
——トランジション期がどんなものなのか具体的にイメージできるように、今回は長田さんのトランジションストーリーをお聞かせいただきます。
長田:あくまで一例として、お話しさせてもらいますね。
僕は2018年からコミュニティフリーランスとして活動していますが、フリーランスになるまでの5年間、転職を繰り返していました。何度職場を変えても仕事が楽しくなくて、学生の頃の自分がいまの自分を見たらすごくがっかりするだろうなあと思いながら、暗い時期を過ごしていたんですね。
長田:「どうしたら仕事って楽しくなるんだろう?」「そもそも僕が楽しいって感じているのってどんな時だろう?」と考えていたとき、ふと思い出したのがコミュニティの存在でした。プライベートの時間を使ってコミュニティ運営をした経験があるのですが、その時がめちゃくちゃ楽しかったんです。もう一回その喜びを取り戻したいと、藁にもすがるような気持ちでした。
長田:いきなりコミュニティを仕事にするイメージは持てなかったので、まずはプライベートの時間で小さく行動していきました。noteで発信をしたり、たくさんのコミュニティに参加していくなかで、僕のトランジションのキーパーソンとなる株式会社Waseiの鳥井弘文さんという方に出会います。コミュニティに関する想いや当時抱えていた悩みを聞いてもらっていたんです。そうしたら、「Wasei Salonという新しいコミュニティの立ち上げを一緒にやらないか」と声をかけてくれました。そこで初めて、職業としての「コミュニティマネージャー」を任せてもらえることになったんです。「Wasei Salon」のメンバーは尊敬できる人たちばかりで、いまでも大切な仲間たちです。
そんなある日、当時所属していた会社の重要な会議がありました。今後の経営方針を決める大事な会議であるはずなのに、僕はその会社のことを全然自分ごと化できず、何の意見も発することなく退出したんです。このままこの会社にいても、自分にとっても会社にとっても良くないと実感した出来事でした。
会議が終わってすぐにマクドナルドに飛び込んで、いま感じている想いを「Wasei Salon」のSlackに書き込みました。2,000文字くらいの熱々な想いと葛藤を。そうしたら「長田はコミュニティやってみたほうがいいよ」と、みんなが応援してくれたんです。応援してもらえたからこそ「自分はやれる、大丈夫だ」と、根拠のない自信を持つことができました。この時にコミュニティフリーランスとしての独立を決意したんです。
長田:僕は4〜5年間、ずっとトランジション期にいたのかもしれません。苦しい期間ではありましたが、その時間を過ごしたからこそ、コミュニティマネージャーという仕事に出会えたし、いまの自分がいるんだと確信しています。
違和感はトランジションのはじまり
——長田さん、大切なお話をありがとうございます!長田さんのエピソードを聞いて、トランジションは聞き慣れない言葉だったけど、自分も経験したことあるなあと感じた方も多そうですね。ここからは、長田さんのエピソードも紐解きながら、トランジションを真ん中に据えて4人でトークセッションしていければと思っています。
最初のテーマは「トランジション期に起きること」。私たちの心の中では、どんな感情が生まれてくるのでしょうか?
植原:「いま自分がいる環境に違和感を持ち始める」というのが、トランジションのはじまりなのではないかと思います。「ここにいると窮屈だなあ」とか「自分らしくないなあ」という感情がシグナルになるのではないかと。
岡田:まさにそうですね。違和感やモヤモヤする気持ちは、その先にある新しい自分が少しずつ顔を出している合図なのではないかと。先程、正太郎さんがニュートラルゾーンを「何者でもない期間」と表現してくれましたが、このプロセスのことを心理学では「内的な死」と呼んでいます。いままでの自分が一度白紙になってしまうような感覚です。そういう意味では、不安や葛藤を感じるのは当然のことだとも感じますね。
岡田:長田さんが「コミュニティをやりたいんだ」という強い願いに気づいたプロセスをもう少し具体的に伺えますか?
長田:とにかくめちゃくちゃ悩んでいて、わけがわからなくなっていたんですよね。会社の仲間たちと比べて貢献できてないと感じていたし、そう思うほど自分の居場所がなくなっていく感覚があって。どうすれば毎日が楽しくなるんだろうって、散歩したりしながらひたすら考えていました。
そんな中で「コミュニティがやりたい」と思ったのは、ある種直感みたいな感じで。論理的に考え抜いて出てきた答えではなくて、パッとひらめいたんです。「あ、これだ!」って。
岡田:おもしろいですね。自分の違和感に向き合い続けた結果、パッとやりたいことが浮かんでくる。自分の違和感に向き合い続けていたからこそ、ふと湧いてきた「直感」や「ひらめき」のようなものを逃すことなくキャッチできたのかなあと聞いてて思いました。
好奇心にも賞味期限がある
——視聴者の方からコメントもきていますが、フリーランスという道ではなくて、もう一度転職する選択もあったのかなあと思うんです。コミュニティを仕事にしているロールモデルもほとんどいなかったタイミングで、なぜその選択ができたと振り返りますか?
長田:2回転職したのに何も状況が良くなっていないことに気づいてしまったんですよね。環境のせいにしていても何も変わらないんだなあと。じゃあ、あらためて自分が本当に求めているものって何かを考えたとき、コミュニティしか思い浮かばなかったんです。それを形にするには、フリーランスという形態が一番しっくりきたという感じですかね。
植原:話を聞いていてすごく大事だなと思ったのが、「コミュニティが好きだ」という気持ちをちゃんと育ててきたことなんじゃないかなと。プライベートでコミュニティ運営をやっていたときも、きっと本業ですごく忙しかったと思うんですよね。そんな中でも「こんなことがやりたいなあ」という気持ちに気づいて、それについて話したりアクションをしてみる。そうやって自分の「好き」を育ててきたのかなあって感じました。
長田:好奇心にも賞味期限があると思うんですよね。明日なくなってしまう可能性があるからこそ、いま心がどこを向いているか、何にワクワクしているか、意識的に耳を傾けようと意識していたのかもしれません。
不安や恐れから決断すると、根本的な解決に至らない
——「好きを育てる」すごく素敵な表現ですね。
岡田:長田さんのトランジションストーリーで素晴らしいなって思うことのひとつが、決断するまでにしっかりと時間をかけられていること。違和感や不安、恐れに長い間向き合い続けて、かつ自分の好きを熟成させていったことが鍵な気がしています。
不安や恐れってある不快感情ですから、早く抜け出したくなる人が多数なんじゃないかなあと思っていて。でも、急いで決断してしまうと根本的には何も解決していない。先ほど長田さんが言っていたように、転職しても状況は何も良くならなかったって話ですね。
岡田:こちらは人の意識を表している図です。実は人間は、意識の全体の1〜3%程度しか自覚できていなくて、無意識が大半を占めると言われています。自分の願いやありたい姿もこの無意識領域にあることが多いと思うんです。そこにいかに気づくことができるか。
1〜3%の自覚的な感情だけに反応するのではなくて、この無意識領域にいかに深く入っていけるかが本質的な変容においてすごく大切なことだと思っています。
——どのようにしたら、その無意識領域にある願いにたどり着くことができるのか?また、長田さんはセルフコーチングできていたということですか?というコメントが視聴者の方から届いています。
岡田:絶対の成功法はないと思っていますが、あるとすれば、一つは誰かに話を聞いてもらうことですね。内省というと自分一人でやるイメージが強いかもしれませんが、自分一人で行うセルフコーチングだけだと、気づける範囲に限界があると思っています。人の意識の97%以上が無意識である理由は、脳が記憶できるメモリに限界があるからだと言われています。無意識になる必要があるからなっているわけなので、そこに自分だけの力でアクセスするのは難易度が高いですね。
だからこそ、問いのプロフェッショナルであるコーチが必要なんだと思います。この人には何を話しても大丈夫だなあと深く安心できてからのほうが、無意識領域にアクセスしやすくなることを考えると、長期的に同じコーチに伴走してもらうほうが気づきを得やすいと思っています。
トランジション期に必要なのは、“安心安全”な場所
——自分の願いに気づくためには人に話を聞いてもらうことが重要だと。当時の長田さんにも、話を聞いてくれる存在がいたようですね。
長田:そうですね。「コミュニティをやりたいんだ」という願いには、自分だけの力では辿り着けなかったと思います。トランジションは想像以上に不安で孤独に苛まれやすい時期ですからね。
僕の場合はプロコーチではなかったですが、尊敬できる人が常にそばにいてくれたことが大きかったと思います。的確なアドバイスをくれる人とかではなくて、ただ話を聞いてくれて、いつでも応援してくれる人。そういう存在がすごく勇気を与えてくれたと思っています。
植原:ニュートラルゾーンにいるときって、少しでも傷つけられたら立ち直れなくなってしまうような、すごく繊細な時期だと思います。そういうときに、同じ経験をしている人たちが側にいて話を聞いてくれることが大切だと思っていて。お互いのトランジションを優しく見守っていこうという空気がグリーンズジョブでは流れていますね。
——THE COACHが大切にしているコーチのあり方にも通ずる話なのかなあと思いましたが、岡田さんはいかがでしょうか?
岡田:コーチのみならず人の話を聞くときに一番大切なのが、善悪を決めつけないことだと思っています。悩みや葛藤を抱えているクライアントに対峙するとき、コーチが「いまの状態は悪だから早く抜け出させてあげなくちゃ!」という前提に立ってしまっていると、本来のその人の想いに気づけなくなってしまいます。無意識領域の声にいつ気づけるかは人それぞれですし、コーチがコントロールできるものではないはずです。不安や恐れがあるほど裏の願いに気づきにくくなってしまうので、とにかく安心して話せる場をつくることがコーチングでもすごく重要ですね。
植原:そもそも自分の話をちゃんと聞いてくれる人がそばにいる人って、意外と少ない気がしていて。転職の相談は職場の人にはしにくいし、家族の人生にも影響してくると思うとパートナーにも相談しにくいことはある。まだ熟成しきっていない想いを聞いてくれる第三者的な存在がトランジション期には重要だと思っています。
小さな一歩としてまずは話を聞いてもらう
——自己内省に時間をかけることはできても、その後のアクションに繋がらないというお悩みが視聴者の方から届いています。内省からアクションに繋げるには何が大切だと思いますか?
植原:キャリア支援の文脈でよく話に挙がるのが「啓発的経験」という考え方です。いきなり転職や移住をするのではなくて、まずはインターンやボランティア、副業などの機会を活用して小さく体験すること。スモールステップかもしれないけど、やっていくうちにだんだんと自信がついてきて、新しい自分に気付いたり背中を押してくれる人が現れたりするかもしれません。
長田:誰かに話すっていうのも最初にできるアクションの一つですよね。コミュニティマネージャーをやっている僕としては、最初の一歩としてぜひコミュニティを活用してほしいなって思うんです。クローズドな空間だからこそ、自己開示のハードルはグッと下がると思っています。安心できる場所でまずは小さな一歩目を踏み出してみる。
——人に話してみることで「あ、これじゃなかったかも」と気づくことも私はあるなあと思いました。違うなって思ったら「違ったわ!」と素直に軌道修正できるのも、安心できる環境ならではなのかなと。
岡田:僕は「いま、何が自分を不安にさせるのか」にとことん向き合うことが、結果として無理のないアクションにつながっていくのかなあと。
いまの環境を変えたいっていう気持ちの裏には、「このままでは不安、怖い」という想いが隠れていると思うんですね。「そもそも、なんでいまのままでは不安なんだろう」という問いに向き合うことが一番大切だと思っています。
向き合うと言っても、お茶を飲みながらぼーっとするくらいでいいんです。不安に駆られるとつい行動をとりたくなってしまうんですが、そこをあえてじっと動かないでみることで、「これだ!」と新しい人生が始まる人もいれば、「よくよく考えたら変える必要なかった」って結果に落ち着く人もいます。
不安に駆り立てられるように行動するのではなくて、安心できる場で「いまの自分も悪くないかなあ」くらいに思えた頃に、新しい自分がふと顔を出して、自然と行動が変わっていくのではないかなあと。
トランジションの訪れは祝福されるべきもの
——視聴者の方からすごく素敵なコメントが届いているので、紹介させてください。
本当にそうですよね。一人ひとりが安心してトランジション期を過ごせる環境をつくりたいという想いで、グリーンズさんとの提携がはじまったことを私もじんわり思い出しました。最後に、あらためてコーチングとトランジション掛け合わせが生み出す可能性について一言ずついただけたら嬉しいです。
長田:トランジション期にとって必要なことは、速く走ることではなくて、いかにちゃんと自分の内側に潜っていけるかなのかなあとあらためて思いました。一人だと浅いところをずっともがいてしまう可能性もあるので、コーチやコミュニティ仲間の力を借りて、自分が納得できるところまで潜ってみること。急ぎたくなる気持ちはわかるけど、一回立ち止まってみると違った景色が見えてくるのではないかなあと思いました。
植原:視聴者の方からの気づきのコメント、すごく嬉しいですね。トランジション期に入ったってすごくラッキーなことだと僕も思っていて。人生の大事な節目だったり、新しい自分が生まれようとしているお祝いすべき時期だと思っています。
自分の本当の願いに気づくためには、コーチに伴走してもらったり、価値観の近い仲間を見つけて話を聞いてもらったりする体験を積み重ねることが必要だと思います。世の中には、まだまだそういう場所や機会が足りていないですよね。
岡田:僕も、トランジションを祝福すべきことだと思っています。自分がより自分らしくなっていく時期だと思うんですよね。人生も日本の四季のように、それぞれのフェーズにそれぞれの良さがあります。冬の寒い時期にも冬ならではの美しさがあるように、葛藤や苦しい時期の中にも人生の豊かさや美しさが潜んでいる。じっとしているだけでも自然と春はやってきますから、焦らず時間をかけることを大切にしてもらいたいなと感じています。
あと、これまでコーチングは人の行動を促進してきたという評価があると思っています。でも、僕としては「行動を促進する」「人生をとにかく前に進める」って必ずしも必要なことではない気がしているんですよね。いまの自分の感情をまずはゆっくり味わってみる、時間をかけてその場にとどまってみる方法として、今後コーチングの力が発揮されていくといいなあと感じました。
——話したいことが盛りだくさんで、答えられなかった視聴者の方からの質問もたくさんあるのですが、今後のTHE COACHでのイベントやグリーンズジョブ内でのコラボイベントなどもありますので、ぜひそういった機会をご活用いただければと思っています。本日は、ご参加いただきありがとうございました!
*
NPOグリーンズが運営するトランジションコミュニティ「グリーンズジョブ」はこちら
▼グリーンズジョブ
▼オンラインコーチングスクール「THE COACH ICP」と「グリーンズジョブ」が提携し、コーチングによる転職や移住等の“人生のトランジション”の伴走・支援を開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000069031.html
THE COACHではコーチングを学ぶ・受けるの2つのサービスを提供しています。ご興味がございましたらぜひお申込みください。
▼コーチングを学ぶ
https://thecoach.jp/?utm_source=note&utm_medium=social&utm_campaign=journey
▼コーチングを受ける