2022.12.13

「解釈も要約もせず、ただ話を聞いてくれるコーチがいたから決断できた」あさま社坂口さんがTHECOACHMeetを通して独立・創業を決めた理由

就職・転職・独立・結婚・移住など、大きな決断をする機会は、誰しもに訪れるもの。そして、決断には不安がつきまとうものです。

本当にこの選択は正しいのか、迷うくらいなら行動しないほうがいいんじゃないのか……その不安から決断を保留し続けることもあるのではないでしょうか。

コーチングサービス『THE COACH Meet』も、決断を控えたタイミングで利用いただくケースが多くあります。

今回お話を聞いたのは、THE COACH Meetの利用者のひとり、あさま社の坂口惣一さん。坂口さんは、軽井沢への移住をきっかけにそれまで勤めていた大手の出版社から独立し、一人で出版社を創業。2022年の10月には1作目の書籍が刊行されました。挑戦的にキャリアを築かれている坂口さんですが、ご本人は「やりたいことが見つからず、グズグズしている期間が長かった」と言います。

本noteでは、坂口さんがコーチとの対話で気づいたこと、ひとり会社の代表としてコーチングをどのように活用しているかをお話いただきました。

坂口 惣一(さかぐち そういち)
大学卒業後、営業職、出版社2社での編集職を経てSBクリエイティブ株式会社へ。新書、ビジネス書、実用書の編集を手掛ける。2020年に軽井沢へ教育移住。22年同社退社後、軽井沢を拠点とした出版社・あさま社を創業。「みらいに届く本」をミッションに活動をはじめている。創業第一弾『子どもたちに民主主義を教えよう』(工藤勇一・苫野一徳)が2022年10月に刊行。1979年生まれ茨城県出身。

現状への不満があった。ただ、「本当にやりたいこと」はなかった

コーチングを受け始めたのは、2020年。長らく働いてきた出版社で働き続けるか、独立するか、考えはじめたときでした。

個人的にも社会的にも、2020年は激変の年。コロナ禍の真っ只中で外出自粛が呼びかけられ、仕事はリモートワークに。また、軽井沢にある風越学園への娘の入園が決まり、家族揃って移住。何十年も続いていた日常が一変したタイミングでした。

移住してから半年、私は会社への帰属意識がどんどん薄くなっているのを感じていました。その一方で、「お金を稼がないといけない」という義務感や不安が入り混じった気持ちも強く感じていました。

もっというと、現状への不満の言葉は思いつくのに、「じゃあ、本当は何をしたいの?」と自分に問いかけても、何かを決断できるような強い思いは見つからなかったんです。独立も頭にありましたが、現実的に考えると不安が勝ち、モヤモヤと過ごしていました。

そのとき、娘が通う風越学園の創業者の方が、コーチングを定期的に受けていると知りました。新しい学園を作るという大きな決断の背景にコーチングでの体験があったと聞いて、「コーチングのなかで、何が起こったんだろう?」「どういうプロセスで決断に至ったんだろう?」と純粋に興味が湧きました。それで、自分もコーチングを受けてみようと思ったんです。

独立に不安と恐れを生み出していた「内なる妨害者」。概念を知ることで、自分をメタ認知できる

モヤモヤとしながら会社に勤めるなかで、少しずつですが、自分の興味があることを試す時期がありました。せっかく移住したのだからと地域おこしの手伝いのようなことをやってみたり、本を売るイベントを開いてみたり。

そうして、あらためて「自分は何がやりたいの?」と問うてみると、「本を作りたい」「出版社を作りたい」という思いに至っていきました。いろんなことを試してみて、最終的に昔からずっと続けてきた本づくりに立ち返ったのだと思います。

ただ、会社から独立し、一人で創業することを考えると、「失敗したらどうしよう」「周りからどう思われるだろう」とまた不安が浮かんできたんです。その不安はなかなか拭えず、いろんな人に相談しても独立を決断できなくて。コーチングを受け始め、コーチにその不安を話したところ、「それは“内なる妨害者”が影響しているかもしれませんね」と教えてくれました。

“内なる妨害者”は、「自分を崩す声」とも呼ばれるもの。コーチいわく、「焦りや不安、もしくは恐れの感情を生み出し、自分らしい選択を阻害することもある、自分の中に無意識に存在する前提」を指すといいます。

私の場合だと、「出版社を作りたい」という内的動機に気づいているのにそこに目を向けられず、周りの目や社会的な評価といった外的要因ばかり気にして、自分が本当に望んでいる選択をできずにいました。

ただ、“内なる妨害者”という概念があると知ったことで、自分の感情を一歩引いて客観視できるようになりました。この不安は、誰もが抱えるもの、付き合い続けるものだと分かったことで「この不安を前提として、これからどうしようか?」と思考を前に進められたんですよね。独立を決断できたのは、コーチとのやり取りのなかで不安との向き合い方を学んでいったからだと思います。

コーチは、解釈も要約もせず、ただ話を聞いてくれる存在

僕が独立してからもコーチングを受け続けているのは、「話を聞いてもらえる」という圧倒的な信頼感があるから。コーチは、解釈も要約もせず、ただ話を聞いてくれるんです。

たとえばキャリアの相談をしたときって、ほとんどの人は「こうしたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてくれるじゃないですか。もしくは、「〇〇が不安ってことですね」とまとめてくれたりとか。

でもコーチは、ただひたすらに聴くことに徹してくれるんですよね。沈黙を大切にしている印象があります。僕自身が話し終えたと思っても、コーチは沈黙を破らず、言葉を待ってくれる瞬間があるんです。その沈黙のなかで「あ、これを話したい」と自分の本心が引き出されるように感じています。

返答するときも、コーチは「僕はこういう風に受け止めました」と必ず個人の言葉として返してくれるんですよね。社会的な価値観や一般論ではなく、その人個人の言葉で返してくれる人って、じつは稀だと思っていて。

一方向から答えを与えられるのではなく、双方向に対話できるのがコーチだなと感じるんです。コーチが問いや沈黙を大切にしてくれるから、自分の思考がまわりはじめる。コーチが答えを言わず、個人的でフラットな言葉で返してくれるから、自分だけの答えが見つけられる。

そうして見つけた答えは、誰かに教えてもらったものと納得感が異なります。賞味期限が短い他人から教えてもらった答えと違って、自分が見つけた答えは「自分が望んだもの、自分が決めたもの」と本心から言える。だから、その後何年も揺らぐことのない、大切な指針になるのだと思います。

コーチと相談しながら決めていった会社名。小さな会社だからこそ、哲学・思想を強固なものにしたい。

最近は、コーチに「会社名を何にしようか?」という具体的な内容を相談していました。

自分が考えたいくつかの案をコーチに伝えて、その名前から、どのような印象を受けるかという感想を返してもらいました。その感想はコーチ個人のものでしたが、社名が社会にどのように受け止められるかの参考になりましたね。

また、案さえ出ずに行き詰まったときには、コーチが「いまある出版社の名前のなかで、坂口さんに響くものはありますか?」「会社のミッションから逆算したときにどんな会社名が思い浮かびますか?」と問いを投げかけてくれました。

コーチが伴走してくれたことで、完全に思考が止まってしまうことはなく、最終的には「これだ」と思える会社名を見つけられたと感じています。

▲坂口さんが立ち上げた出版社の名前は「あさま社」に。浅間山からとったと言います。

会社名やビジョンを相談する時、ブランディングやマーケティングを主とする企業の手を借りることが多いと思います。市場を見て戦略的にやっていこうと思う企業ならなおさらです。

でも、僕の場合はひとり出版社で、大企業から独立するというバックグラウンドを考えても、市場ではなく自分の中を掘って、哲学や思想を反映した言葉を作るほうが合っているなと思いました。

ひとりで、地方で、資本に影響されない環境で、会社をやる意味は哲学や思想にある気がしているので。コーチとは今後も、一緒に会社の哲学を外に発信していくための言葉や方法を考えていこうと思っています。

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▼坂口さんのコーチングを担当した長井コーチ

https://thecoach.jp/meet/coach/masafumi-nagai/

長井 雅史(ながい まさふみ)

慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。SFC研究所上席所員。米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)。日本の同コーチ養成機関において当時最年少で資格を取得し、対話の研究を経て独立。人が自分・他人・自然との間に「質のある関係性」を取り戻すことをテーマとする。現在はコーチングや対話を通じて個人・組織の変化に関わることや、対話を広げる研修・ワークショップ、コミュニティを事業として取り組む。また、その傍で古民家をベースに自然とのつながりの中で暮らす共同体づくりを実験中。共著書に『対話のことば オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』(2018年)