「自分を見つめ直したい」「コミュニケーションを円滑にしたい」「ビジネスシーンで活用したい」など、さまざまなニーズによってコーチングの認知度は少しずつ高まってきました。
一方で、興味はあるけれど自分に必要かよくわからない、本当に効果があるの?とコーチングの「ホントのところ」を知りたいと思っている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方に向け、THE COACH ICPでは2021年7月29日、コーチングの”ホントのところ”をざっくばらんにお話するトークセッションを開催しました。
ゲストとしてお招きしたのは、エッセイスト / コラムニストのりょかちさん。コーチングについてまだ学んだことのないりょかちさんからTHE COACH代表のこばかなへ、率直な疑問をぶつけていただきました。
ホントのところその1:どういうテーマを設定すればいいの?
りょかち:そもそもコーチングセッションを受けるときって何を相談したらいいんですか?
こばかな:一言で言うなら「答えがないようなテーマ」でしょうか。たとえば「理想のキャリアってなんだろう」とか「私が本当にやりたいことはなんだろう」といった漠然とした問いや、人によって答えが違うようなテーマを扱っていきます。
りょかち:意外とざっくりとした話をしてもいいんですね!でも、セッションの度に何を話そうか準備しないといけないのは大変そう……。
こばかな:いえ、話すテーマは明確に決まっていなくても大丈夫です。「今日何話そうかな〜」となんとなく考えながら来てくれるクライアントさんもいますし、セッションの冒頭で最近の話をしているときに「今日はこのテーマを話したいかも」と思いつくこともありますよ。
りょかち:なるほど。コーチとコミュニケーションをとりながら本当に話したいことを見つけていく感じなんですね。
こばかな:そうですね。コーチングでは「何かに気づいていく体験」そのものを大切にしていくので、あらかじめ設定するテーマは実は話の入り口に過ぎません。
たとえばAさんがBさんとの人間関係に悩むというテーマから話がスタートした場合、そのまま「Bさんとうまくやる方法」について話すこともできます。一方で、Bさんの話を入り口に「自分自身の内向的な性格によってBさん以外の人との人間関係もうまくいっていない」という話が出てくれば、「内向的な自分とどう向き合うか」というテーマに移り変わっていきます。
だから、最初のテーマに固執する必要はありません。さらに深いところに真のテーマがあることも多いんです。
ホントのところその2:コーチングは継続して受けるもの?
りょかち:コーチングによる変化がどのくらいで生まれるのかも気になります。効果を実感するために回数や期間の目安はありますか?
こばかな:一般的には1ヶ月に1回、もしくは2週間に1回のペースで、3ヶ月は同じコーチで継続した方がいいと言われていますね。それは、コーチングにおいてはパートナーシップが重要だからです。やはり人と人なので、初日でばっちりセッションが進んでいくことは珍しく、ある程度関係性を結ぶことで良質なセッションができると思います。
また、長い時間をかけないと変容できない、本当の自分の望みが見つからないというパターンも存在します。
コーチングは1時間のセッションの時間だけを指すのではなく、セッションを受けた後の日々の気づきもその一部。セッションで気づいたことを握りしめながら日々を過ごし、定期的なセッションコーチからフィードバックをもらうことで、じわじわ効いてくるものなんですよね。前後の変化を見てもらうという意味でも、継続した方がいいとされることが多いです。
一方で、人対人ということでコーチとの相性の良し悪しもあります。継続してコーチングを受けるために、お試しセッションなどで自分が話しやすいコーチを選んでおくのがおすすめです。
ホントのところその3:コーチからの質問にパッと答えが浮かばないときはどうすればいいですか?
りょかち:特にコーチングを始めたてのころは、答えが浮かばないとコーチに気を遣ってしまうこともあるんじゃないかなと思います。そんなときはどうすればいいですか?
こばかな:質問を通してコーチが知ろうとしているのは、単なる「質問への回答」ではないんですよね。答えを見つけることを通してクライアント(コーチングを受ける人)に気づきを得てもらうのが目的です。
たとえばコーチが「好きな食べ物は何ですか?」と聞くとき、「ピザ」という答えがほしいわけではありません。「今の質問で思い出したんだけど、昔友だちとピザを食べていたときが一番心が晴れやかで……」のような気づきを引き出したいんです。
コーチからの質問にすぐに答えが浮かばないときに、沈黙が気まずくて模範解答のような答えを用意してしまうという声も聞きますが、「わからない」「何も考えてなかった」、空気を読まずにそう答えてOK。
真のクライアントは自分の内側なので、「わからない」「何も考えていなかった」というに気づきそのものに意味があります。そのためにも、わからなかったらわからないといえる関係性をコーチとクライアントのふたりで作っていくことが大切になってきます。
ホントのところその4:コーチングを受けても「ひとりで考えたことと同じだったな」と思ってしまうことがある。率直な感想を伝えても良い?
りょかち:実は過去にコーチングを受けたときに「やっぱり?それは知ってた!」と思ってしまったことがあるんです。
こばかな:そういうときは、率直な感想を伝えてもらって大丈夫です。コーチに対して「悪いな」と思う必要はありません。
ただ、クライアント側にもコーチングを受けるコツがあって。コーチングでは、コーチが答えを見つけてくれるわけではなく、結局は自分自身で気づく必要があるんですよね。自分自身に対して好奇心を持っている状態をコーチャブルと言うことがあるのですが、コーチャブルであることはコーチングを受ける上でとても重要です。
たとえばこれまでに考えてきたことをなぞって話している場合、「やっぱりこういうことなんだ」と自分の考え方に対して確信が持てることもあります。「このセッションを通して私が話したいこと・気づきたいことってなんだろう」とクライアント自身が考えることも大切です。
りょかち:「自分で気づく」という姿勢も大事なんですね。
こばかな:そうなんです。良いセッションにするためには、クライアントも積極的にセッションに挑んでいく必要があるし、ときにはクライアントもコーチに対してフィードバックをする必要があります。
「今話していることは私が探求したいテーマではなさそう」「これはひとりで考えていたことと同じことだった」と遠慮なくクライアントさんがフィードバックができるように、コーチも話しやすい環境を整えていく。コーチングセッションはふたりで作っていくものなんです。
ホントのところその5:コーチングを「受ける」と「学ぶ」はどう違うの?
りょかち:コーチングを「受ける」と「学ぶ」はどう違うんでしょうか?コーチングを受ける人と学ぶ人、それぞれが何を求めているのも知りたいです。
こばかな:コーチングを学びたい人は、「コーチになりたい」「マネジメントに活かしたい」「接客や営業に活かしたい」など、仕事へ応用するために学習を始める方が多いんです。ただ、学びたい人も受けたい人も、コーチングを通じて自分自身と向き合いたいという思いは共通していますね。
りょかち:なるほど。THE COACH ICPでは具体的にどんなことを学べるんですか?
こばかな:THE COACH ICPでは、最初に問いを立てることや傾聴などの基本的なスキルを学び、型から入っていきます。
それらを使って対話を重ねていくと、自分がいかに本当の意味で話を聞けていなかったのか、いかに聞いてもらえていなかったのかを実感します。コーチングのスキルや概念を学び、そのフィルターを通した世界を見つめ直すことで、よりクリアに人の話を聞く体験ができるはずです。
りょかち:たとえばどんな体験ができるんですか?
こばかな:言葉だけではわからない、そうではない何かに気づけるようになるんですよね。たとえば「大丈夫」って言葉を言われた場合、「大丈夫だよ…..」って言われると大丈夫じゃなさそうだとわかるじゃないですか。そういう直感が鋭くなるイメージです。
ホントのところその6:コーチングは仕事にも活かせる?
りょかち:コーチングを学ぶことで相手の話に対する感性が高まったり、話の聞こえ方が違ってきたりするということでしたが、それらが仕事でどのように活きるのか具体的な事例はありますか?
こばかな:わたしが仕事においてコーチングの学びが活きているなと思うのは、人の表情を見られるようになり、感情にもアンテナが立つようになったことです。
たとえばミーティングでAさんとBさんの意見が対立している場合、それぞれの意見にはそれぞれの価値観が眠っているんです。「〇〇はやりたくないから××をやりたい」「上司に認められて早く昇進したい」と、さまざまな想いが要因となって出てきた意見だから、あの人はよくわからないことを言っていると決めつけたり、真っ向から否定することがなくなる。
その意見にどんな想いがのせられているんだろうと好奇心を寄せることで、戦闘モードから温厚な話し方になって優しい場になると思います。コーチングには知っておくと優しくなれる概念が多いんですよね。
りょかち:わたしの場合「なんでこの人はこんなこと言うかなあ」と思っても、そこで行き止まりなことが多いから、その先に進むための思考法が学べるのは嬉しいかも。
こばかな:職場ではみんなにとってわかりやすい説明ができる論理的な人が評価されがちですが、経営者やリーダーの場合は、自分やメンバーの熱量に従って意思決定をすることがあります。
コーチングはその熱意を引き出すのが得意なんです。表情や語気から、相手が心の底からやりたいと思っているとキャッチできるから、「それについて話しているときはテンションが高いですね!」とフィードバックをすると相手もそれに気づいてくれる。自分はこの話をしているときに輝く耀くんだなって、自分自身の熱量に確信が持てるんです。
ホントのところその7:自分のことをセルフコーチングはできる?
りょかち:コーチングを学ぶと、自分をコーチングすることもできるんですか?
こばかな:他者ではなく自分をコーチングする「セルフコーチング」には、できる領域とできない領域があると考えています。
自分が認識している世界は他の人が見ている世界とは違うもので、必ず死角があります。そこを突く問いを立てられるのは自分の外から見られる他者しかいないし、フィードバックをもらうことで新たな気づきが得られます。プロのコーチが職業として存在しているのにはそういう意味があると思います。
りょかち:セルフコーチングでは限界がある感じでしょうか。
こばかな:ある程度内省は進むと思いますが、実は気づきを得るためには話すことが効果的だと言われているんです。「オートクライン効果」という名前もついていて、気持ちを脳内で言語化して、言葉として発する。それが耳に入ることで自分の頭が整理されるんです。誰かに話すこと自体が気づきを生むためには価値のある行為なので、言語化してから気づくことはけっこうあります。
りょかち:たしかに、言語化だけでも気づきはありそう。こばかなさん自身もセルフコーチングは難しいと感じている?
こばかな:そうですね。私も人間なのでもちろんうだうだ悩むことはあり(笑)、そんなときはコーチの力を借りていますよ。ただ、コーチングを学ぶことで自分の本音にはかなり敏感になっていくので、ぐるぐる同じことを悩むよりかは、建設的な問いを立てられるようにはなったと思いますね。
りょかち:悩みに対する対抗策をいくつか持っている感じですかね。
こばかな:まさにそんな感じです。今自分はこれに関して悩んでいるんだと気づけるだけでメンタルが安定するから、冷静に客体化して対処ができるんです。
ホントのところその8:コーチに向いている人は?
りょかち:コーチになるには向きや不向きはありますか?
こばかな:コーチングに興味があるのは大前提として、人の話を聞くのが楽しいと思えるかは向き不向きを判断するポイントのひとつです。コーチになると人の話を聞いている時間が圧倒的に多くなるので、聞き上手な人はスタートダッシュがしやすいはずです。
向いている人、という話からは少し離れますが、コーチングを学ぶと劇的な変化が起こりやすいのは、「ロジカルシンキングこそ至高」と考えている人です。まさに私自身がそうでした。
りょかち:具体的にどう変わりましたか?
こばかな:以前は感情を軽視していたせいで、パートナーから怖がられていたことがありました。仕事が疲れて嫌だなという話をされると、「じゃあ仕事を変えてみたら?」と解決策に話を移してしまう。
でもコーチングを学び感情に目が向くことで、まずは「仕事が大変で疲れたんだね、嫌なんだね」と受容するところから会話が始まり、パートナーが求めていたことはただ話を聞いてほしかっただけだった、ということもありました。最近は「こばかながコーチングを学んでくれて本当によかった」とよく言われます(笑)。
パートナーや夫婦の関係がうまくいってない人はコーチングを学んでみるのもひとつの手かもしれません。
りょかち:たしかに、話を聞いている人は客観的な立場だから、なんでこうしないんだろうってアドバイスしたくなりますけど、きちんと悩みを聞くだけでも大事なことですよね。
ホントのところその9:コーチングのアプローチを取らない方がいい関係性はある?
りょかち:日常生活でもコーチとしてのあり方が役に立つ場面は多いと思いますが、逆にコーチングのアプローチを取らずにコミュニケーションをした方がいい場面はありますか?
こばかな:あります。悩みを相談された場合、単に話を聞いてほしい人もいれば、アドバイスを求めている人もいる。コーチングを”銀の弾丸”だと思わずにひとつの武器として捉えると良いと思います。
コーチング業界では「今の自分は何の帽子をかぶっているのか」という比喩表現を用いることがあるのですが、状況に応じて「コーチの帽子」と「上司の帽子」をかぶり変える感覚が必要なんです。
たとえば部下との1on1のときに、「今からコーチングセッションのようなことをしても大丈夫?」と前置きをすることで、部下も今から何が起きるのか心の準備が整います。自分の帽子をきちんと可視化させるためにも、こうした許可取りは重要ですね。
ホントのところその10:コーチとしてやってはいけないことは?
りょかち:コーチングをする上で、これはやっちゃダメ!ということはありますか?
こばかな:コーチングは基本的にコミュニケーションを取るための”手段”なので、これをやったらコーチとして大失格というのは無いと思います。
ですが、国際コーチング連盟の資格を取る場合は、セッションの採点ポイントとしていくつかチェックされる項目があります。たとえば、コーチ自身が話すテーマを決めるのはNGで試験では減点対象になってしまいます。ただ、実際のセッションではテーマを提案することはありますし、コーチとしてではなく”社会人の先輩”としてアドバイスすることもあります。
プロのコーチになるために採点される項目を厳密に知りたい場合は、「国際コーチング連盟」で検索するといろいろ出てくるはずです。
ホントのところその11:セッションの終了時間が過ぎても話が終わらない
りょかち:実際にコーチをしている方からも質問が届いています。「話が止まらないクライアントさんがいて、セッションの終了時間が過ぎても話が終わらない場合どうすればいいですか?」
こばかな:「そろそろ終了のお時間です」というのは全然問題ないと思います。私の場合は「残り10分ですが、今日はいろいろお話ししていかがでしたか?」とセッションの終わり際に相手にまとめてもらっています。まとめることで新しい気づきが生まれることもあるので、コーチ側で時間管理をして終盤にこうした問いを用意しておくといいかもしれません。
ホントのところその12:コーチングもスクールも、時間とお金がかかりそう
りょかち:最後に、コーチングやスクールの価格が高くて継続が難しそうだというコメントも届いています。たしかにコーチングって、カウンセリングと比べると少し高くないですか?
こばかな:そこはすごく共感します。コーチングは相場を軸にコーチ自身が経験を踏まえて金額を決めるのが一般的です。
熟練のコーチは1回1万円以上かかる一方で、駆け出しのコーチの場合ワンコインや無料でやっている方もいらっしゃいます。コーチと話すことで何かしらの気づきは得られると思うので、価格が気になる方はまずは安めの価格設定をしているコーチを体験してみるのもいいかもしれません。
りょかち:コーチングを学ぶことに関しては、どのくらいの時間とお金がかかるといった目安はありますか?
こばかな:国際コーチング連盟の資格を取る場合、最低60時間のトレーニングと100時間の有償のコーチングセッション時間。価格は100万円以上かかってしまうスクールが多いのが現状です。THE COACH ICPでは数十万円に収めるように頑張らせていただいています。
りょかち:とはいえスクールに通ってしっかりと学ぶ時間がない人も多いと思うのですが、本で学んだり、学習コンテンツに触れたりしただけで独学でコーチになるのは難しいのでしょうか。
こばかな:正直難しいと思います。コーチングをスポーツと捉えるとわかりやすいかもしれません。本を読んでもスポーツが上達しないように、インプットだけではコーチになるのは厳しいと個人的には思っています。
学生や新卒のときに読んでもまったく身に付かなかった本が、社会である程度揉まれた後で読み返してみるとすごくわかるようになるように、実践があるからこそ、本に書かれているような抽象的な知識が理解できるようになると思います。
ホントのところその13:コーチングを学ぶのに適した年齢は?
りょかち:コーチングを学ぶのは、年齢を重ねてからの方が良いのでしょうか?人生経験が豊富な方が良いようにも思えますが……。
こばかな:わたしとしては、あまり年齢は関係ないと思っています。コーチはクライアントの中にあるものを引き出す役割。自分が積極的にアドバイスをするわけではありません。また、若いからこその好奇心もあるでしょうし、若かったとしてもその中で人生経験は膨大にあるはずです。20歳で成熟している人も中にはいますから、「年齢」という軸だけで評価する必要はないと考えています。
りょかち:若くてもチャレンジして良いということですね。
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こばかな:あっと言う間に終わりの時間となりましたが、りょかちさん、いかがでしたか?
りょかち:わたしとしては、聞きたいことを存分に聞ける時間になりました。参加者の方の疑問も解決していると嬉しいです。
イベント前は「コーチングはサービス」という認識で、自分がコーチングを受けるときはただそこに受動的に座っていればいいと思っていました。悩み事を最初に打ち明けたら、コーチの人が答えを見つけてくれるイメージですね。ですが、大切なのは自分が自分に好奇心を持って、コーチと一緒に考えていくことだと知り、コーチングに対してのイメージが変わりましたね。
こばかな:良かったです!わたしとしても「皆さんはこんなところが気になるんだ」という気づきの多い時間となりました。コーチングを受ける・学習する皆さんの助けになれれば幸いです。
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